蒲鉾(かまぼこ・野焼き)

「野焼き」の名は昔、煙と熱気を避けて外で焼いたことに由来し、江戸時代の松江城主松平不味公によって命名されたと伝えられています。
野焼き蒲鉾の中でも代表的なものは「あご野焼」です。
あご」とは飛魚のこと。
あごが落ちるほど美味しい」ことから、あごと呼ばれるようになったという言い伝えもあります。
島根では古くから飛魚を食す習慣があり、刺し身や、すり身を使った蒲鉾、天ぷら、料理のだしなど、様々な方法であごの美味しさを味わってきたのです。
初夏に山陰沖を北上する脂ののった鮮度の良いあご(飛魚)のすり身を主原料に、地酒等で独特な味付けをし、焼き上げたものが「あご野焼」です。
中でもこの「あご野焼」は、魚のすり身を使って作った円筒状のかまぼこで、太い竹輪のような見た目をしていて、島根の食卓に当たり前に並ぶおなじみの食品として、島根県民なら誰しも慣れ親しんだ味なのです。
形や焼き方は竹輪と似ているのですが、竹輪に比べて身が厚くて食感も竹輪よりはかまぼこに近いものです。
ちくわを巨大にしたような形状でこしがあり、色は黒く、かじるとあごの旨みと酒の香り、そして歯ごたえと焼きの香ばしさが絶品です。

伝統の製法

飛魚はその名の通り、海の上を飛ぶことができます。
古くから縁起物とされ、夏を告げる魚として親しまれてきました。
島根県では平成元年に県の魚に指定されました。
飛ぶと言っても鳥のように羽ばたくのではなく、翼のように見える大きな胸ビレで、グライダーのように海面を滑空します。
飛ぶ高さは高い時で50センチ、飛距離は最長で500メートルにも達するといわれています。
そのため飛魚の身は筋肉質でしまっていて、脂肪がほとんどないのです。
内臓が小さいため鮮度が落ちにくく、味は淡白でさっぱりとしています。
夏に山陰沖を北上する飛魚は産卵を控え、身が締まっていながらうまみがのり、刺身で食べても美味しくいただけます。

野焼きは竹輪に比べて三倍以上は大きいのが普通です。
とにかくサイズが大きいので、煙が出ても大丈夫なように戸外で焼いたことから「野焼」と呼ばれるようになったといわれています。
飛魚の身には強い粘りがあり棒に厚くつけても離れることがないため、大きく太いあご野焼を作ることができるのです。
製法としては、まず飛魚の頭や内臓・皮・骨などを取り除き、これを水にさらしてアクをとります。
その後、擂(す)りつぶしたものに、酒や塩などを加えながら、石ウスで練っていきます。
酒や砂糖などを加え、練りあがったら、その身を平らにのばして棒に巻き付け、この棒を火の上で回しながらゆっくりと焼き上げていきます。
普通に焼くだけでは大きなあご野焼にうまく火を通すことはできません。
このため、焼き工程の中には「突きたて(「突きたて」とは焼いている野焼きの表面に多数の針で細かい無数の穴を開けることです。これにより熱しているうちに野焼きが膨らんで、表面が破裂するのを防ぐことができます)」と呼ばれる工程もあります。
風味豊かな「あご野焼」は、是非厚く切ってお召し上がりください。