津和野町

中国山地の谷あいに広がる小さな城下町「津和野」(つわの)。
津和野町は島根県の南西部で現在の島根県鹿足郡(しまねけんかのあしぐん)にあり、山口県との県境に位置していて、「つわぶきの生い茂る野」がその地名の由来といわれています。
旧津和野町と旧日原町の合併により平成17年に誕生した町です。
鎌倉時代末期に津和野盆地を一望する霊亀山(れいきさん)に城が築かれた後は山陰と山陽を結ぶ街道の要となり、江戸時代には和紙を中心とする産業で栄えました。
町を望む山の中腹には、日本五大稲荷の一つ「太皷谷(たいこだに)稲成神社」が存在し、山の麓に広がる町並みには当時の面影が色濃く残っていて、山深くに佇む古都の風情は「山陰の小京都」とも呼ばれています。
千本あるといわれる朱塗りの鳥居からなるトンネルが幻想的な「太鼓谷稲荷神社」をはじめ、石畳と古い建築物が情緒あふれる街並みをつくっている「殿町通り」など、見どころが盛りだくさん。
また、毎年7月末に行われる祇園祭の中で、街中を練り歩く鷺舞は津和野の代名詞であり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
津和野地区は津和野城跡から望む中心部に城下町の風情を色濃く残し、藩主の懐刀として活躍した同じく国学者「福羽美静」(ふくばびせい)、文豪の森鷗外や哲学者である西周など明治維新を支えた先人を数多く輩出したともいわれ、歴史遺産と多くの伝統文化に恵まれており、「山陰の小京都」としていまなお多くの観光客が訪れているのです。

美しい隠れ里のような町

今からおよそ150年前の江戸時代の終わりの様子を描いた「津和野百景図」には、当時の風景や様々な祭りなど当時の人々の豊かな生活ぶりが百枚の絵としてまとめられています。
津和野城跡」や「弥栄神社の鷺舞」、「鷲原八幡宮の大杉」などの指定文化財はもとより、青野山や高津川などの今後文化財として大切に残していくべき対象のモノが数多く描かれた百枚の絵は、今でいう当時の「文化財ガイドブック」といってもいいかもしれません。
桜や紅葉の名所など風光明媚の地、それに鮎や猪、松茸、山菜など「食べられる」百景図も描かれています。
「津和野百景図」を手本として、町並みや伝統行事、自然景観を守り伝えてきた津和野の人々の暮らしそのものが「津和野今昔~百景図を歩く」というストーリーで「日本遺産」として認められたのでした。
これら百枚の絵図に描かれた題材の半分以上は、現在の津和野でも目にすること、体験することができるもので、津和野を訪れると百景図の時代と今の時代が、リンクしていることが分かります。

旧武家屋敷や旧藩校が並ぶ「殿町通り」。この通り沿いにある堀割(用水路)を泳ぐ鯉は、津和野の代名詞的な光景となっています。
江戸時代の初め、津和野藩初代藩主・坂崎直盛によって建設された堀割で、水路に発生する蚊の幼虫を駆除するために、疫病対策として鯉が泳がされたのだとか。
鯉は縁起の良い生き物として喜ばれますが、堀割を泳ぐのはどれもこれもが大きくて立派な鯉ばかりで、その優雅な姿に見とれることもあるかもしれません。
5~6月には掘割に花菖蒲が咲き、夜間のライトアップも行われて幻想的な雰囲気をたっぷり味わえます。

津和野から島根県庁の所在地である松江市までは200kmで、SLやまぐち号が走るJR山口線、山陰の幹線道である国道9号線と岩国に繋がる国道187号線が交差し、津和野駅脇の駐車場には、かつて山口県と島根県を結ぶ山口線を走っていた「デゴイチ」で親しまれるSL列車「D51」が保存されています。
1979年(昭和54年)に運転を開始して以来、老若男女たくさんの人に愛され続けてきました。
現在は、毎年3月~11月と年末年始などに「山口駅」~「津和野駅」間で「SLやまぐち号」を運行(JR西日本のホームページに運行カレンダーが公開されていますので、要チェック)。
貴婦人」と呼ばれるC571型と、「デゴイチ」で親しまれるD51型の2種類が、期間によって運転するSLが変わります。普段は1台が5両の客車を牽引しますが、2台のSLを連結し運転する「重連運転」(じゅうれんうんてん)が行なわれることも。多くの観光客を魅了しています。
津和野駅から津和野城跡までは、徒歩約40分ほどの距離。美しい町並みを楽しみながら散策すれば、津和野城跡のリフト乗り場にたどり着きます。標高370mにある津和野城跡へは登山道で登れますが・・・便利なリフトを使えば、いつの間にか間に山頂のリフト降り場へ。リフト降り場から天守までは徒歩約15分。天気が良ければ津和野の町並みが一望でき、SLが走るのどかな風景を楽しめるでしょう。

歴史的建造物も数多く、山城の津和野城跡、森鷗外旧宅(いずれも国指定史跡)、ステンドグラスが美しい津和野カトリック教会など、多様な文化が入り交じった津和野町は不思議で美しい隠れ里のような雰囲気のある魅力的な町です。